書けないのは、文章力の問題ではない
皆さん、こんにちは。王子かわはし事務所の川橋です。
「持続化補助金の計画書、どう書けばいいですか?」——この相談は本当に多いです。
ひとつ、質問を返させてください。あなたの商売を、業界のことを何も知らない人に1分で説明できますか? 誰に、何を、どうやって届けているか。
これにすらっと答えられる人は、計画書もほぼ書けます。逆に、ここで詰まる人は「書き方」をいくら調べても書けません。計画書が書けないのは文章力の問題ではなく、自分の商売を言語化したことがないだけです。
考えてみれば当然です。自分の商売を他人にわかるように構造化して伝える方法なんて、義務教育でも、商工会議所のセミナーでも習いません。 毎日やっている仕事なのに、それを「計画書の言葉」に変換する方法を知らない。
この記事は「うまい計画書の書き方」ではなく、あなたが毎日やっている商売を、計画書の言葉に変換する方法を伝えるものです。
ただ、安心してほしいのは——これは一度でも踏んだらできるようになります。自分の商売を構造化して伝える、その「アハ体験」を一回くぐり抜ければ、次からは自然にできる。この記事が、そのきっかけになればと思います。
2,000件の窓口で見えたこと
私は持続化補助金の制度が始まった頃から、商工会議所の窓口で計画書の作成支援をしてきました。少なく見積もっても10年間で2,000件は超えています。1日6人から10人、1人30分の枠で。
2,000件やると、相談者との面談が始まって5分くらいでわかるようになります。 この人は採択される、この人は厳しい。
違いはシンプルです。「誰に、何を、どうやって届けるか」がはっきりしている人と、そうでない人。計画書のテクニックとか、文章のうまさとか、事業の規模や業歴はほとんど関係ありません。
「迫力のある計画書」の正体
採択される計画書には迫力があります。この迫力の正体はストーリーです。
私はこういう人間で、こんなお客さんに、こんな商品を売っている。業容はこう。お客さんが求めるものはこう変わってきて、ライバルはこんな感じ。うちにはこんな武器があるけど、こんな課題もある。それを踏まえた目標はこうで、達成のためにこういうことをする。体制とスケジュールはこう、効果はこうなるから持続的に成長できる。
これ、実は公募要領の審査項目を完璧になぞっています。でも本人は「審査項目に沿って書いた」とは思っていません。自分の商売のストーリーを語っただけ。結果的に審査項目が全部埋まっている。
逆に、「審査項目に沿って書きましょう」と教わった人の計画書は、穴埋め作業になりがちです。形式は整っているのに、読んでも何がしたいのかわからない。
窓口ではできないこと
正直に言うと、窓口の30分でこの変換を手伝うのは難しい。会話でノックして、反応がなければ——つまり「誰に何を知ってもらって、どうしてほしいんですか?」という問いに答えられなければ——深掘りは諦めて、体裁を整えることに徹します。30分では魔術は使えません。
ただし、反応がない人に「能力がない」わけではありません。変換の仕方を知らないだけです。自分の商売を毎日やっている。お客さんの顔も見ている。タネは持っている。でもそれを計画書の言葉に変換した経験がない。
この記事は、窓口の30分ではできなかったそのノックを、何度でもやれる場所として書いています。
「変換」の具体的な方法
では、自分の商売を計画書の言葉に変換する方法を、経営計画書(様式2)と補助事業計画書(様式3)の順に見ていきます。
テクニックの話ではありません。「ふだん考えていることを、どの欄にどう落とすか」の対応表だと思ってください。
経営計画書(様式2)——自分の商売を整理する
経営計画書には4つのパートがあります。
1. 事業概要:何を誰にどうやって売っているか
審査員はあなたの業界の素人です。「当社は板金加工業を営んでおります」では何も伝わりません。
たとえば「精密板金加工」なら、「金属の薄い板を、図面通りの形状に0.1mm単位の精度で切断・折り曲げ・溶接する仕事です」と書くだけで、まったく印象が変わります。
ノック: 自分の仕事を、隣の家のおばちゃんに説明するつもりで書いてみてください。業界用語を使った瞬間、おばちゃんの目が泳ぎます。
2. 強み:お客さんがあなたを選んでいる理由
「品質にこだわっています」これは強みではなくスローガンです。審査員が知りたいのは根拠。
- リピート率80%以上(数字)
- 競合は最低ロット1,000個だが、うちは1個から対応(比較)
- 顧客アンケートで「納期の正確さ」が評価理由の1位(顧客の声)
ノック: 常連のお客さんに「なんでうちに頼んでくれるんですか?」と聞いたことはありますか? その答えが、計画書に書くべき強みです。
「自社の強みがわからない」という相談者も多いですが、実は小さな会社がお客様に選ばれる理由は、ある程度パターンが決まっています。技術力、対応の速さ、小回りの利く柔軟性、地域密着の信頼関係——種類はそんなに多くありません。「うちには強みなんてない」と思っている方も、お客さんに聞けばたいてい答えは返ってきます。
3. 市場環境:お客さんと競合の変化
「最近お客さんが減っている気がする」は分析ではありません。データで語る必要があります。
使えるデータソース:
- 商圏の人口推移(総務省統計局、RESAS)
- 業界の市場規模(業界団体の白書、中小企業白書)
- 競合店舗の増減(Googleマップで確認できる範囲でもOK)
- 顧客の年齢層の変化(自社の売上データ)
ノック: 5年前と今で、お客さんの顔ぶれは変わりましたか? 何が変わりましたか? その変化を数字で裏づけるのがこのパートです。
4. 経営方針と目標:だから何をするのか
ここまでの3つ(事業概要・強み・市場環境)は「現状の整理」。それを踏まえて「だからこうする」を示すのがこのパートです。
穴埋めの書き方: 「売上を増やすためにホームページを作る」
ストーリーの書き方: 「商圏内の30〜40代子育て世帯(増加傾向)に、当社の強みである少量対応力を知ってもらい、月間問い合わせ5件を目指す」
違いは明確です。誰に・何を知ってもらって・どうしてほしいのかが入っているかどうか。「売りたい」ではなく「届けたい」の視点があるかどうか。
持続化補助金は販路開拓の補助金です。販路開拓とは「売る」ことではなく、お客さんに知ってもらい、便益を届ける道を作ること。ここがごっそり抜けている計画書が、窓口で見てきた中でも本当に多い。
補助事業計画書(様式3)——実行計画を具体化する
様式2で「何をやるか」の方向が決まったら、様式3でその中身を具体的に書きます。ここは計画書というより実行計画書です。見た瞬間に「この人はもう事業を始められる状態だ」と思わせる具体性が必要です。
事業内容:読んだら動ける具体性
「ホームページを作成する」では足りません。
- 誰が(自社で? 外注?)
- 何を(何ページ、どんなコンテンツ)
- いつまでに(月単位のスケジュール)
- なぜ(様式2の課題との接続)
- どうやって(制作会社の選定基準、運用体制)
数値目標:積み上げで根拠を示す
「売上120%を目指す」だけでは、審査員は「どこから出てきた数字?」としか思えません。
積み上げの例:
- ホームページからの月間問い合わせ:5件(見込み)
- 成約率:40%(既存の対面営業実績から)
- 平均単価:15万円
- 月間売上増:5件 × 40% × 15万円 = 30万円
- 年間売上増:360万円
根拠がある数字は、多少控えめでも説得力があります。根拠のない大きな数字より、根拠のある小さな数字のほうがずっと強い。
経費の積算:相見積もりと明細
補助対象経費が100万円(税抜)を超える場合は、原則として2社以上の見積書が必要です。1社しかない場合は「業者選定理由書」を提出します。
見積書は「一式」ではなく、できるだけ明細を出してもらいましょう。「ホームページ制作一式 80万円」より「デザイン30万円・コーディング25万円・撮影10万円・ドメイン他15万円」のほうが、審査員にとって妥当性を判断しやすい。
提出前のセルフチェック
計画書を書き終えたら、以下を確認してください。
- 業界を知らない人が読んで、事業内容を理解できるか
- 「誰に何を知ってもらってどうしてほしいのか」が明確か
- ストーリーが一貫しているか(現状→課題→方針→補助事業→効果)
- 数字に積み上げの根拠があるか
- 経費の見積もりに明細があるか
- 最新の公募回の様式を使っているか
- 商工会議所・商工会の確認印をもらったか
特に最後の「確認印」は忘れがちです。持続化補助金は商工会議所・商工会を通じて申請する制度なので、事前に経営計画書の内容を見てもらう必要があります。早めに予約を取ってください。直前は混みます。
タネがある人は、書ける
計画書が書けないと悩んでいる人の多くは、タネを持っています。毎日商売をやっていて、お客さんの顔を見ていて、困りごとも感じている。ただ、それを計画書の言葉に変換した経験がないだけです。
この記事で何度も「ノック」をしました。どれかひとつでも「ああ、そういうことか」と感じた瞬間があったなら、あなたにはタネがあります。あとは変換するだけです。
ただし、正直に言えば——タネがない人に花を咲かせることは、誰にもできません。「とりあえず補助金がもらえるなら何か買いたい」という動機だけでは、どんなに書き方を工夫しても計画書に迫力は出ません。
自分だけで変換するのが難しければ、商工会議所の窓口を使ってください。30分の枠ですが、タネを持っている人なら十分です。 もう少しじっくり取り組みたい方は、お気軽にご相談ください。
窓口で多くの方を見てきて思うのは、スイッチがどこにあるかは人によって違うということです。ただ、ひとつだけ共通点がある。「お客様に選ばれている理由」が自分の中で明確になった瞬間、経営者の目が変わる。 自信が出てくるんです。計画書の迫力は、結局のところ経営者の自信から出てくるものだと思います。
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