「今日からAI担当ね」と言われた総務の方へ
皆さん、こんにちは。王子かわはし事務所の川橋です。
経営者から「うちもAIを使おう。担当は君ね」と任された総務担当の方へ。この記事はその方に向けて書きました。最近、こういう会社からの相談がめちゃくちゃ増えたからです。
私が想定しているのは、従業員数十名ほどの小さな会社で、総務も経理も人事もぜんぶ回しているような担当者。言われた業務はきっちりこなすけど、新しいITツールを自分から触りに行くタイプではない。そういう人が、ある日突然「AI担当」に任命される——実際の現場でよく見る光景です。
AI活用セミナーで何度も見てきたもう一つの光景があります。経営者はやる気満々、でも数週間経つと「結局あまり使えてない」で止まる。これは担当者のせいではなく、最初の一歩を間違えているだけです。
入門書や動画の多くは「ChatGPTを使え」「プロンプト術を覚えろ」から始まりますが、総務担当者にとっては遠回りです。この記事では、私が中小企業の現場で実際に使っているClaude・Gemini・NotebookLMの使い分けと、2週間で場数を踏む手順をまとめます。
ちなみにこの記事では、ChatGPTには触れません。世界で最も使われているAIですが、私の仕事ではこの3つ(Claude・Gemini・NotebookLM)で完結しているためです。AIは日々進化しているので、いまご自身の仕事に使いやすいものを選べば十分です。
AIが続かない人が詰まる「4つの壁」
これまでAIを任された方々と話してきた中で、続かない人が詰まる壁は大きく4つあります。
- 社内で使っていいか不安(情報漏洩・ルール)
- 聞いても期待した答えが出ない
- 何を聞けばいいかわからない
- 開くのを忘れる・習慣化できない
意外に多いのが**「社内で使っていいか不安」の壁**です。「勝手に使って怒られたら」「顧客情報を入れても大丈夫なのか」。この不安が先に立って、触れなくなる。
この記事は、この4つの壁を順番に外していく構成です。最初の壁は、お金で解決できます。
最初の一歩:有料プランに課金する(月数千円)
4つの壁のうち、最初の2つ(社内ルール不安・期待値ギャップ)は、有料プランに切り替えるだけで半分以上解決します。
なぜ無料を捨てるか
無料プランと有料プランの違いは、ざっくりこの3点です。
- 学習の扱い: AIごとに方針が異なる。有料プランを選んだうえで、各サービスの設定画面で「会話データを学習に利用するか」のオン/オフを必ず確認してください。Team/Business/Enterprise 向けプランは、学習対象外がデフォルトのことが多い
- 応答の質: 有料プランは最新・高性能モデルを使える。無料は旧モデル・制限ありが多い
- 利用量: 無料は回数制限にすぐ引っかかる。仕事の場数を踏めない
「社内で使っていいか不安」の中身を分解すると、**そのほとんどが『情報漏洩リスク』**です。有料プランを選び、学習設定を確認しておけば、一般的なクラウドサービスを業務で使うのと同等レベルまでリスクを抑えられます(当然、個人情報・機密情報の取扱いは社内ルールに従う前提です)。
月数千円を惜しんで無料にこだわると、年間で見たときの業務時間短縮の効果の方が大きくなるケースが多いです。最初に課金。ここを曲げないでください。
もし経営者が「月数千円払うの?」と渋ったら、こう伝えてください。AIツール代は研究開発費(R&D)です。新しい道具に投資しない会社は、長期で見ると同業他社に差をつけられていきます。数千円の先行投資が難しい段階の会社さんからご相談をいただいた場合、私はまず「社内で合意を取るところ」からご一緒するようにしています。
なぜ最初は Gemini か
私が総務担当の方に最初に勧めるのは Gemini(有料版) です。理由は3つ。
- 日本語の「しっかりした文章」が書ける。社内文書・提案書・報告書など、硬めの文体が求められる書類に強い
- Canvas機能で「部分修正」ができる。文章の一部だけを選んで「ここをもう少し柔らかく」と指示できる。これがめちゃくちゃ便利
- Google Workspace との相性。Gmail・Googleドキュメントをそのまま素材にできる
特に2のCanvasの部分修正は、Geminiが最も洗練されている印象です。既存文書を「磨き込む」作業が、体感で大きく速くなります(※あくまで私の使用感です)。
私自身、業務マニュアル・コラム記事・セミナー資料の磨き込みはほぼ Gemini Canvas を使っています。文書全体を見渡しながら、段落単位で「ここの流れが悪いから書き直して」「この箇所だけ柔らかく」と指示できる感覚は、次世代のノートと呼ぶのが一番近い。Word・Google Docs・Notion の延長線上ではなく、AIと同じ画面で対話しながら編集するという体験が、従来の「書くツール」と決定的に違うところです。
川橋の使い分け早見表
私が毎日の仕事で実際に使い分けているパターンです。
| タスク | 使うツール | 補足 |
|---|---|---|
| メール・提案書の下書き(0→1) | Claude | 構造が綺麗・指示に素直 |
| 長文の部分修正(1→10) | Gemini Canvas | 選択範囲だけ書き換え |
| 長文レポート・白書の要約 | Gemini | 大量ページをさばく |
| 調べ物(検索+まとめ) | Gemini | Google検索と統合されている |
| 壁打ち・アイデア出し | Claude | 思考の相棒として優秀 |
| 画像・スライド生成 | Gemini + Canva | Geminiで画像、Canvaで仕上げ |
| 議事録・文字起こしの整形 | NotebookLM | 録音データを読み込ませて要約 |
| コード・スクリプト作成 | Claude(※中級者向け) | 詳細は後述 |
0→1 は Claude、1→10 は Gemini Canvas
使い分けの軸で、もっとも大事なのがこの2つの分業です。
- 新しい文書をゼロから作るとき: Claude
構造化された長文を、指示通りに組み立ててくれます - 既存の文書を磨き込むとき: Gemini Canvas
選択した段落だけを「もう少し簡潔に」「経営者向けにトーン調整」と指示できる
これを覚えると、1本の提案書を仕上げる時間が体感で半分以下になります。
結果がブレる本当の原因:プロンプトではなく「情報の渡し方」
AIを使って「思った答えが出ない」「毎回違うことを言われる」と感じたとき、多くの人は**「プロンプトの書き方」を疑います**。
実はそうではありません。与える情報が曖昧だから、結果がブレるのです。
私自身の失敗談
私自身、AIの実力を試そうと、あるプログラムを作らせてみたことがあります。「こんなのできる?」と好奇心で投げてみたら、なんとなく動くものは返ってきたのですが、中身はめちゃくちゃ。使い物になりません。
そこで、何ができればOKか・どれくらいの品質ならOKか・どんな場面で使うか・こだわりたい点は何かを一つずつ整理してから頼み直したところ、今度はちゃんと使えるプログラムが出てきました。
違いはプロンプトのテクニックではなく、渡した情報の量と質です。AIは情報が少ない状態で頼まれると「それっぽい何か」を返すだけ。これはプログラムでも文書でも同じです。
実例:広告集計の自動化
たとえば以前、ある顧問先で「広告経由の問い合わせを自動で集計したい」という案件に取り組みました。最初は「Gmailから問い合わせを抽出して集計したい」だけを伝えてAIに任せても、期待した結果は出ませんでした。
そこで、使っている広告媒体・担当部署・除外すべきメールの条件・最終的に欲しい集計表の形まで、細かく書き出してから頼み直したところ、一発で動くものが返ってきました。情報の量と質で結果が変わる、という原則は、文書でもプログラムでも同じです。
(詳細は AI活用支援事例 case_07 に掲載しています)
例:社員向けにルール変更の案内を書く
同じことが、皆さんの日常業務でも起きています。
残念な渡し方
「社員向けに、新しい勤怠ルールの案内メールを書いてください」
→ AI は「よくある案内メール」の一般論しか書けません。
いい渡し方
「当社は従業員30名の製造業。2026年5月からフレックスタイム制を導入します。コアタイム10時〜14時。社員の平均年齢は45歳で、パソコンが苦手な人も多いので、堅すぎず、でも重要感のある文体でお願いします。メールで一斉配信するので、開始日・コアタイム・申請方法を箇条書きで明示してほしい。400字以内。」
→ AI は意図通りの文章を返します。
違いはプロンプトのテクニックではありません。前提情報を渡しているかどうかです。
「情報シート」を1枚作っておく
毎回これを書くのは面倒なので、**自社の情報を1枚にまとめた「情報シート」**を作り、毎回AIに先に渡す習慣をつけてください。中身はこのくらいでOK。
- 会社名・業種・従業員数・所在地
- 主な商品/サービス
- 主要顧客の属性(BtoB / BtoC、業種、年齢層 など)
- 自分の立場(総務課長・事務担当など)
- 社内のトーン(硬め/柔らかめ、敬語レベル)
このシートを毎回コピペでAIに渡すだけで、出力の質が跳ね上がります。プロンプト術を覚えるより、自社の情報を整理する方が圧倒的に効果的です。
最初の2週間でやること
ここまで読んで「やってみようかな」と思った方へ、2週間の行動プランを置きます。週末まで3日あれば Week 1 が始められます。
Week 1:Geminiで場数を踏む
| Day | やること |
|---|---|
| Day 1 | Gemini(有料プラン)に課金。社内ルール3行だけ決める(「個人名と顧客情報は入れない」など) |
| Day 2 | 先週作ったメール1通を Gemini に書かせ直す |
| Day 3 | 先週の会議メモを NotebookLM に放り込んで要約させる |
| Day 4 | 長めの資料(役所の通知・業界紙・取引先の契約書など)を Gemini に要約させる |
| Day 5 | 報告書 or 提案書の下書きを Gemini Canvas で書いて、部分修正を体験する |
| Day 6-7 | 気づいたことをメモ。うまくいかなかった案件は「情報が足りなかった?」で振り返る |
Week 2:Claudeも加える
- 0→1 の文書作成を Claude でやってみる(Week 1 と同じ題材を Claude で試すと違いがわかる)
- 前述の情報シートを1枚作る。会社概要・顧客属性・自分の役割
- このシートを Claude / Gemini どちらにも毎回先に渡す
2週間後、「AIで仕事が速くなる」が『言葉』ではなく『体感』になっているはずです。ここまで来れば、4つの壁はほとんど崩れています。
まとめ:4つの壁を順に外す
おさらいです。
- 社内で使っていいか不安 → 有料プランに課金して学習オフ。社内ルールは3行で十分
- 聞いても期待した答えが出ない → 情報シートを先に渡す。プロンプト術ではない
- 何を聞けばいいかわからない → 2週間プランで場数を踏めば自然に湧いてくる
- 開くのを忘れる → 週1回「AIで1本文書を作る」を業務に組み込む
AIは魔法ではなく、情報をきちんと渡せば仕事をしてくれる優秀なアシスタントです。総務の方が「続かなかった」のは、続けるだけの具体的な一手目が無かっただけ。この記事がその一手目になれば幸いです。
AI活用ロードマップの中の位置づけ
当事務所では、中小企業のAI活用を段階的に積み上げるロードマップとして整理しています。
- Step 0: AIを中小企業で始めるなら何から?
- Step 1: 業種別AI活用事例
- Step 2: 仕事でAIを使う使い分けガイド(このページ)
- Step 3 以降: 議事録自動化・補助金との連動・DX全体設計(準備中)
Step 3 以降は順次公開していきますので、ブックマークしておいてください。