2. 事業成長の方向性を明らかにする

計画を作るにあたって、事業成長の方向性を明確にすることは非常に重要です。
すでに明確化しているのであればこの章は飛ばしていただいて問題ありません。

環境が変化していく中で、何を確保していくのか?

経営環境は日々変化していきます。例えばこんな感じです。

①市場内の競争激化
市場規模が大きくなっても、それ以上にライバル企業が増えれば利益確保が難しくなる。

例えば一時期前のコロナ禍で、フードデリバリーサービスは隆盛を極めました。市場は拡大してUBER EATSは市場に浸透しましたが、その一方で出前館やNENUなどの競合が現れ競争が激化しています。携帯電話のキャリアも、docomo、AU、ソフトバンク、楽天モバイルを始めとして苛烈なシェア争いを繰り広げています。一時的な勝者になれたとしても、有望な市場には強力なライバルが登場することで経営の改善は必須となり、業績を維持拡大していくことが求められます。

②代替品による市場の縮小
新たな市場(代替品)の形成によって、相対的な市場の魅力が下がってしまう。

例えば、カメラ業界が顕著な例です。かつて高性能なデジタルカメラが市場を席巻していましたが、スマートフォンの進化によって、その市場は大きく変わりました。スマートフォンのカメラ機能が劇的に向上し、日常の写真撮影で専用のデジタルカメラを必要とするユーザーが減少しました。この結果、デジタルカメラ市場は縮小し、特に入門者向けのコンパクトカメラは売上が大幅に落ち込みました。同様に、音楽プレイヤーもスマートフォンに統合され、かつて市場を席巻していた製品が消えていったことも例に挙げられます。
このように、代替品の台頭は新たな市場を形成する一方で、既存市場の魅力や規模を相対的に低下させる要因となります。

③お客様の行動様式の変化
お客様の年齢、ライフスタイルなどの変化によって、趣味趣向、行動が変わっていく。

例えば、美容室のスタイリストの年齢が高くなると、自然と顧客層も年齢の近い層にシフトしていくことがあります。若い世代のお客様は同世代のスタイリストを好む傾向があり、逆に年齢を重ねたお客様には同じように経験を積んだスタイリストが安心感を与えることが多いからです。そのため、店舗全体の雰囲気やサービス内容も、ターゲット層の変化に合わせて柔軟に対応する必要が出てきます。また、住宅会社の営業マンについても同様です。営業担当者の年齢が上がることで、顧客とのコミュニケーションの中心が若い夫婦や初めて家を購入する層から、中高年のリフォームやセカンドハウスを検討する層へとシフトすることがあります。これは、担当者自身の経験やライフステージが顧客に対する共感を生みやすくなるためです。
このように、従業員の年齢や経験値に伴い、ターゲット層やアプローチ方法が変わることで、提供すべきサービスや営業戦略の見直し、配置転換などの変化が求められるのです。

④製品・サービスの高付加価値化
市場内の製品・サービスが高度化していく中で、改良が遅れると売上は低下する。

例えば、スマートフォン市場では、毎年のように新しいモデルが発表される中で、カメラ性能、プロセッサの高速化、耐久性の向上など、製品の付加価値が年々高まっています。この競争の中で、旧型の機能やデザインをそのまま提供し続けた場合、顧客に選ばれなくなるのは明らかです。特に競争が激しい市場では、他社よりも先に新しい価値を提供することが重要となります。また、飲食業界においても、高付加価値化の動きが顕著です。従来の「安さ」や「手軽さ」だけを売りにしていた店舗が、健康志向やサステナビリティに配慮したメニューを追加しないままでいると、ライバルに遅れを取るリスクが高まります。たとえば、有機食材を使用した料理や、特定の食事制限(ヴィーガンやグルテンフリー)に対応した商品は、一定の付加価値を求める顧客層に支持されやすいです。
このように、製品・サービスの高付加価値化が進む中で、改良や進化を怠ると顧客離れが進み、売上やブランド価値の低下を招く可能性が高まります。そのため、時代のニーズや市場動向を捉え、継続的なイノベーションが求められるのです。

⑤法律・法令や商慣習の変化
法令、業界内の規制が厳しくなることで、これまでの商売ができなくなっていく。

例えば、タバコ業界はその典型例です。健康被害に対する意識の高まりとともに、喫煙に関する法規制が年々強化されています。公共の場での喫煙禁止、広告規制、包装の健康警告表示義務化など、これまで自由に展開されていたビジネスモデルが制約を受け、販売戦略の大幅な見直しを余儀なくされています。また、電子タバコや加熱式タバコの普及が進む中で、新しい規制にも対応しなければならない状況が続いています。また、食品業界においても、アレルギー表示や成分表示の義務化が進むことで、製品のラベルや広告内容を見直す必要があります。これに対応できない企業は、消費者の信頼を失い、最終的に市場から淘汰されるリスクがあります。同時に、エコロジー意識の高まりから、プラスチック容器の使用制限やリサイクル促進に関する規制も導入され、包装形態や流通の見直しが急務となっています。
このように、法律や商慣習の変化に対応できない企業は、従来のビジネスを継続することが難しくなります。そのため、規制や業界動向を注視し、柔軟に対応する仕組みを構築することが重要です。

⑥社会状況の変化
物価高、省エネへの関心、少子高齢化などが市場にマイナスに働いていく。

例えば、少子高齢化の進展は、教育産業や玩具業界に大きな影響を与えています。子どもの数が減少することで、学習塾や学校向け教材の需要が縮小し、玩具メーカーも売上の減少に直面しています。このような市場では、少子化対策に特化した新たな製品やサービスの開発が求められる一方、高齢者向けの市場へのシフトも視野に入れる必要があります。また、物価高や省エネへの関心の高まりは、家計に負担を与える一方で、企業にも新たな課題を突き付けています。エネルギー価格の上昇により、消費者は電力使用量が少ない家電や燃費の良い車を求めるようになり、これに対応できない企業は競争力を失うリスクがあります。同時に、商品価格が上昇することで、購買意欲が低下し、売上減少につながる可能性があります。
さらに、パンデミックや自然災害のような社会全体を揺るがす出来事も、消費行動や市場環境に大きな影響を与えます。こうした社会状況の変化は、企業の経営戦略に長期的な調整を迫り、柔軟な対応力が求められる要因となります。市場環境が変わる中で、時代のニーズを正確に捉え、適応する能力がますます重要になっています。

このような環境の変化は、新しいビジネスチャンスを生み出す一方で既存の事業の鮮度を下げる要因になります。
さらに、これらの変化は複合的に発生しますし、リアルタイムに起こるので待ってくれません。

現代の経営では、ゴーイングコンサーン(事業を継続させることを前提とする考え方)が基本となっています。簡単に言えば、会社が存続し続けること自体が存在意義のひとつとされています。しかし、環境の変化に目を背けてしまうと、ライバルに後れを取り、最終的には赤字に転じて倒産へと至るリスクが高まります。このように、変化に対応する力が企業の生き残りにとって欠かせない要素となっているのです。

なので繰り返しになりますが、事業の方向性を明確にすることは非常に重要となります。

成長の方向性を明らかにする ー誰に・なにを・どうやってー

まずは会社の外側(お客さんやライバル)に対して、どういう方向性で対応していくのかを考えましょう。
下の図は、アンゾフマトリックスと呼ばれるお客様(市場)と商品の視点から成長の方向性を考えるものです。
ぼんやりと眺めながら、どの方向に向かっていくのか考えるのに有効です。どのような活動が中心となるのかを把握するとよいでしょう。
また、事業計画の作成初期段階ではここをガチッと決める必要はなく、途中で行ったり来たりしてもいいです。

次に、会社の内側(自社が獲得したいもの)についても考えましょう。
環境が変化する中で、自社の活動によって何がどのくらい獲得できれば達成とするのか、その項目を考えます。

①売上高・利益の獲得
②経営ビジョンの実現
③人材の確保・活用


大きく分けてこの3つがメインになると思います。
一番重要ではあるのですが単に売上高を確保するだけだと、視野の狭い活動になってしまいます。なぜ、わざわざサラリーマンを辞めてまで会社経営をしているのかというビジョンの実現や、1人だけで働いて完結しているわけではないので、社内外のメンバーの確保や活用なども含めて、どのような成長をしていきたいのかを具体的にイメージするとよいでしょう。この話は、次の章で具体的に説明します。

この記事を書いた人

川橋 隆則

中小企業診断士 当事務所の代表を務めています

パティシエからスタートして、システムエンジニアとなり、その後に経営コンサルタントとなった
ちょっと変わった経歴の持ち主です。