5. 事業計画の立案①顧客ニーズにチャンスあり

事業を行うためには、その事業で扱う商品・サービスが消費者や取引先にとって価値があるもの、消費者や取引先が求めているものでなければなりません。
そのため、消費者や取引先のニーズ、またそのニーズの変化などを明らかにし、顧客のどのようなニーズに応えていくのかを明確にしておくことが大切になります。

エンジニア時代は品質管理業務を行っていたのですが、この立ち位置の業務内容はプログラムに不具合がないことをテストすることおよび、お客様に提供するプログラムが、お客様の業務上の実現したいことを満たしているのかを評価することでした。特に若手のエンジニアに多かったのですが、技術力を誇示したいのか、自分にとってすごい(だけ)の機能を開発するケースがありました。例えるならば「20気圧防水の冷蔵庫」のようなものを胸を張って持ってくるわけです。確かにすごいんですけど、防水が求められる環境で冷蔵庫を使うようなことはしませんし、余計な機能は製品の価値をむしろ低下させてしまいます。これは、「お客様が欲しがっていること<自分がやりたいこと」という状態に陥っているケースで、事業計画の立案において気をつけたいところです。

顧客ニーズの解像度を高める調べ方

ターゲットとなる市場や顧客、ニーズなどを明確にしていきましょう。大きく2つの視点で区分すると把握が容易になります。

①【マクロの視点】社会情勢や技術環境の変化

社会全体の動向や技術の進展は、ビジネス環境に大きな影響を与えます。例えば、コロナウイルス感染症の拡大によりリモートワークが普及し、働き方や生活スタイルが変化しました。また、少子高齢化が進む中で、高齢者向けのサービスや製品の需要が増加する傾向にあります。さらに、ICTやAI技術の進展に伴い、業務の自動化や新たなビジネスモデルが生まれ、効率化や革新が進む環境が整っています。これらの社会情勢や技術環境の変化を捉えることで、将来の市場機会や潜在的な顧客層を見極めることが可能になります。

業種業態ごとに立ち位置が違うので、それぞれの事象がチャンスになるのかピンチなるのかは様々ですが、社会情勢全般ではコロナ禍がもたらした社会の変革は避けられないでしょう。マクロの視点ではNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)だとめちゃくちゃ頭の良い研究者によって市場全体の変化を分析しているので、とても参考になります。ちょっと難しいですが。。

引用:NEDO/コロナ禍後の社会変化と期待されるイノベーション
https://webmagazine.nedo.go.jp/pr-magazine/focusnedo78/sp1-2.html

②【ミクロの視点】個人の需要やニーズの変化

一方で、個人レベルでの価値観や生活スタイルの変化も重要です。消費者は高級高品質志向や低価格志向、コストパフォーマンスの良さを求めるなど、様々なニーズを持っています。例えば、美容・健康志向の高まりを背景に、自然素材を使用したオーガニック製品やパーソナライズされた健康管理サービスへの需要が増えています。また、デザイン性や機能性を重視する傾向も見られ、単に機能的であるだけでなく、見た目にも優れた商品が求められるようになっています。加えて、SDGs(持続可能な開発目標)への関心が高まる中、環境に配慮した商品やエシカルなサービスに対する支持も強まっています。

正確なミクロ視点の把握には、客観的な情報に頼るのが一番です。

・政府やインフラ系の情報

統計情報・e-Stat・国勢情報などで地域の需要をある程度把握することが可能です。例えば周辺地域の人口動向なんかは市区町村のWebサイトで掲載されていますし、駅の乗降車数は鉄道会社のWebサイトを見たら調べることが可能です。

・報道・ニュース記事

業界専門誌・総合的な報道紙なども立派なニーズの把握になります。業界によっては専門誌があり、例えば住宅業界であれば、リフォーム産業新聞という業界紙があります。各業種で情報を提供することを商売としている事業者さまの記事は信憑性が高いと判断していいでしょう。

・民間会社の情報

Googleトレンドは、Googleで検索されているキーワードの推移を調べることができます。いつ、どのような地域でどのようなキーワードが調べられていたのかを見れば、ニーズの把握につながります。また、きんざい業種別貸出審査辞典という聞き慣れない辞典も調査に有効です。これは金融機関が貸出を行う際に業界の動向を把握するための資料で、買うと20万円くらいするのですが、大きめの図書館に行けば置いていることが多いです。

・アンケートやお客様の声

いっそのこと既存顧客に聞いてみることも有効です。アンケートの方法についてはネットや紙媒体で、お客様が手待ちの時や購入後などに匿名で聞くとよいでしょう。また、要望、商品別の売上推移も参考になることがあります。

ニーズの把握は客観的に

これらのマクロな社会環境の変化とミクロな個人の需要・ニーズを組み合わせて考えることで、より具体的で客観的な市場ニーズの分析が可能です。
例えば、AI技術の進展(マクロ)を活用して、個人の美容・健康志向に応えるためのパーソナライズド健康管理アプリを開発する、といったアプローチが考えられます。このように、広い視点での社会的動向を把握しつつ、細かな消費者のニーズに寄り添うことで、ターゲット市場を明確にし、競争力のある事業計画を構築することができます。何よりも客観的に、できるだけ思い込みを排除した把握を行うよう心がけてください。

この記事を書いた人

川橋 隆則

中小企業診断士 当事務所の代表を務めています

パティシエからスタートして、システムエンジニアとなり、その後に経営コンサルタントとなった
ちょっと変わった経歴の持ち主です。