今回は、仕入れ価格の上昇に伴う値上げの判断を支援した、飲食店の事例をご紹介します。客数が減った場合の粗利を数値で示すことで、経営者の不安を整理し、価格改定とその先のメニュー・販促の検討につなげました。
支援先の状況
ご相談をいただいた飲食店では、経営者が値上げによる客離れを心配されていました。食材費の上昇に対して価格をほぼ据え置いてきたため、収益の改善が必要な状況でしたが、値上げは小幅にとどめたいというお考えでした。
支援の内容
初回の面談では、まず決算資料と損益分岐点の図を使い、売上から食材費を引いた残りで、人件費や家賃などをどこまで賄えているかを確認しました。そのうえで、値上げ幅ごとに、客数が減った場合の利益への影響を説明しました。
「何人減るだろうか」は、実施前には分かりません。ただ、「どの程度減ると、値上げ前より利益が悪くなるか」は、前提を置いて計算できます。今回は、この数字が判断の材料になりました。
客数が減った場合の粗利を確認
考え方を、支援先とは異なる架空の数字で説明します。
1品1,000円、1品あたりの原価が400円の商品を、100人が1品ずつ注文するとします。売上は10万円、原価は4万円なので、粗利は6万円です。
価格を1,200円にすると、1品あたりの粗利は800円になります。この場合、75人が1品ずつ注文すれば、粗利は同じ6万円です。売上は9万円に減りますが、粗利は維持できます。
つまり、この例では、20%値上げした後に客数が25%減っても、値上げ前と同じ粗利が残る計算です。

ただし、注文の仕方や商品の構成、1品あたりの原価が変わらず、人件費や家賃など他の費用も一定という前提です。仕入れ価格や注文の組合せが変われば、計算し直す必要があります。また、粗利が同じでも、もともと赤字なら赤字は残ります。売上維持や黒字化を保証する数字ではありません。
値上げの判断材料を可視化
実際の支援では、この考え方を使って、そのお店の数字で複数の値上げ案を比較しました。経営者は小幅の改定を考えていた状態から、必要な値上げを行う方針を決め、品目ごとの改定案を準備する段階へ進まれました。
もちろん、すべての商品を一律に上げればよいという話ではありません。注文しやすい価格帯を残す、品目ごとに改定幅を変える、料理の価値を伝えるなど、お店の強みとお客さんの使い方を踏まえた設計もあわせて検討しました。
その後、値上げを実施されました。指導を続けていく中で、数値での説明が客離れへの不安を和らげ、決断を後押ししたとの評価をいただきました。実施後の手応えも伺いましたが、まだ短期間の感覚であり、売上や利益の改善が確定した段階ではありません。効果は、実際の数字を確認していく必要があります。
今回の支援では、客数が減った場合の影響を具体的に示し、経営者ご自身が条件を理解して判断できるようにすることを重視しました。
地域のお客様に合わせた次の展開へ
価格改定に踏み切ったことで、支援のテーマも地域のお客様に合ったメニュー開発や販売促進へと広がりました。平日の一人・二人客が利用しやすいセットや、週末の家族客を迎える工夫、年末の宴会需要に向けた販促などを一緒に検討しました。
値上げは、目先のコスト増をしのぐだけのものではありません。「今の価格でどう耐えるか」から、「お客様に何を届け、どう利益を高めていくか」へ。経営の軸足を大きく転換する、その第一歩にもなるのです。
