8.事業展開に立ちはだかる障壁

新規事業を始める際、避けられない3つの大きな障壁、「魔の川」「死の谷」「ダーウィンの海」があります。これらは比喩的な表現で、事業の各段階での困難を示しています。多くの事業がこれらの障壁を乗り越えられずに途中で断念してしまうことも現実ですが、有望なアイデアであっても成功に向けてはこれらの壁を突破することが求められます。

この章でお伝えしたいのは、新規事業を諦めることではありません。むしろ、必ずと言っても過言ではないほど起こり得る問題を事前に把握することで、心の準備ができ、余裕をもって対応できるという点です。各障壁に潜む原因を知り、問題発生のメカニズムを理解することで、状況を早期に察知し対策を講じる力が養われます。

魔の川:計画段階での障壁

まず、新規事業のアイデアを練り市場に進出する前に直面する壁が「魔の川」です。この段階では、自社の「出来ること」と市場の「欲しいもの」のギャップが障壁となります。

原因

  • 現段階で自社が提供できるサービスの付加価値が低い
  • 新規事業開発までのリソース(人的・資金的)が不足している
  • 競合する商品やサービスが非常に強力である

対応策

  • 市場分析を徹底し、自社が勝てる土俵を見極める
  • 外部の専門家を活用してリソース不足を補う
  • 社内外からアイデアを集め、リリースする商品の改良を行う

魔の川は力技で解決させることが出来ますが、見切り発車はその後の成長を阻害してしまいます。かといって、準備に気を取られると踏み込む事ができず、いわゆる「畳の上の水練」になってしまいます。
実際はやってみないとわからないものです。完璧な準備は存在しないのでバランスを考えて、しっかりと準備と戦略を立て、ギャップを埋める努力をしましょう。

死の谷:提供段階での障壁

次に、実際に商品やサービスを提供し始めた後に直面するのが「死の谷」です。ここでは、市場に受け入れられ、収益化を進めるまでの過程における障壁を指します。
新規事業や創業の開始時期の定義は諸説ありますが、「いつでもお客様に商品やサービスを提供できる状態」と考えると良いでしょう。その後、単月の黒字化を達成するまで、その事業は死の谷に晒されている事が多いです。

原因

  • 事業の規模拡大に必要な資金や知名度の不足
  • 商品・サービスが期待通りにお客様に受け入れられない
  • メンバーや経営者のモチベーションの低下

対応策

  • 需要予測を精緻化し、クラウドファンディングなどを活用して資金調達を行う
  • 事業計画を策定し、プロジェクトを適切に管理する
  • 最小限の製品(MVP)を市場に投入し、早期にフィードバックを得る

事業が軌道に乗るには多大なリソースが必要です。なかなか成果が出ない中でモチベーションを維持していくことは困難を伴います。
死の谷では、事業の軌道に乗せるために資金調達や市場からのフィードバックが鍵となります。早期の試行錯誤を繰り返しながら、提供体制を安定させていくことが重要です。

ダーウィンの海:事業化段階での障壁

最後に、「ダーウィンの海」です。ここでは、事業を一旦軌道に乗せても、顧客ニーズの変化や激しい市場競争など、さらなる壁が待ち受けています。たとえ大企業であっても競争を勝ち続ける事は容易ではありません。2024年時点で売上高45兆円を超えるトヨタですら、経営環境の変化に対応しないと業績を維持することは大変ですし、経営課題のない会社は存在しないと思います。

原因

  • ライバルが増え、価格競争が激化する
  • 提供した商品が飽きられ、競争力が低下する
  • コスト管理が不十分で十分な利益が出ない

対応策

  • ライバルとの差別化を明確にし、自社商品の強みを押し出す
  • 顧客との関係性を強化し、継続的な取引環境を築く
  • 新商品開発を継続し、常に市場に新鮮な価値を提供する
  • コスト管理を徹底し、安定した利益を確保する

ダーウィンの海を泳ぎ切るためには、常に変化する市場環境に柔軟に対応し、持続可能な成長を目指す姿勢が求められます。新たな目標を掲げて、諸活動の精度や効率を高め続けていく必要があります。

まとめ

経営、特に新規事業や創業においては、魔の川、死の谷、ダーウィンの海という3つの大きな障壁があります。
これらの障壁は避けて通れないものですが、事前に原因や対応策を把握しておくことで、心の余裕をもって対処できます。この記事を通じて、これから事業計画を立てる方や創業を目指す方が自信を持って新規事業に取り組む一助となれば幸いです。

この記事を書いた人

川橋 隆則

中小企業診断士 当事務所の代表を務めています

パティシエからスタートして、システムエンジニアとなり、その後に経営コンサルタントとなった
ちょっと変わった経歴の持ち主です。