7.事業別の計画書の作り方

市場のニーズや自社の強みなどを整理し、事業の方向性が見えてきたら、次は具体的なアクションプランを作成していきます。

ちなみに、事業とは会社の活動の単位のことです。たとえばホンダは自動車、バイク、航空機、農耕機械などの製造販売を行っていて、それぞれの活動を事業として管理しています。企業は1つの事業で構成されている場合もありますし、ホンダのように複数の事業を行っている企業もあります。
ここでは、会社の事業別の計画についてお話します。すべての事業の計画を取りまとめたら、全体の経営計画が出来上がります。

当社の考える事業計画書とは

計画のまとめ方には、大きく2つあると考えています。

①機能別で計画を立案する
一般的に計画書はこちらの考え方で作られていることが多いです。機能とは、人事・組織・マーケティング・生産販売・財務などの事業に必要な活動の単位のことです。この視点で計画を立案することも可能なのですが、自分がかつてエンジニアとして計画を書こうとして失敗したのがこの機能別で、別に考えなくていい部分(進めるうえで問題になっていないこと)についてはとても書きにくいものです。補助金の申請や融資の計画などには必要になりますが、その際は求められている項目に沿って書けば大丈夫です。その根っこにある、課題に着目した計画作りを当社では推奨しています。

②課題に連動した計画を立案する
事業には、何かしらの課題が存在します。大企業でも個人事業主でも課題を抱えていて、その課題の解決が求められています。当社では、この視点から計画を作ることを推奨しています。この考え方は経営だけではなく受験やスポーツなど身近な計画にも取り入れられていて、取り組みが比較的容易です。また、機能別の計画にも展開することができますので、まずは課題に連動させて行くことから始めるとよいでしょう。

いちばん大事なのは因果関係

「いちばん大事なのは因果関係」に立ち返りましょう。事業計画を課題に着目して作成するには、「課題・根本原因・対応策」の関係性を正しく理解することが不可欠です。まず、課題とは現状発生している、目標達成のために解決すべき事象を指します。そして、この事象は何らかの要因によって引き起こされており、その要因が根本原因です。根本原因に対してどのようなアクションを取るかが対応策となります。

課題と根本原因を抽出する

例えば「人材の確保」が課題である場合、その原因は「人材募集に十分なコストをかけていなかったため応募者が集まらない」ことかもしれませんし、「募集要件が曖昧で、応募者の条件がマッチしない」ことかもしれません。このように、原因が異なれば対応策も大きく変わります。課題に対して直接的な解決策を講じても、効果が得られない場合があります。そうならないためにも、因果関係を踏まえて検討することが重要です。

では、課題と根本原因について掘り下げていきましょう。いくつかサンプルを用意しました。

よくある課題よくある根本原因
慢性的な赤字営業に関するツールが足りていない、ホームページのアクセス数が少ない、認知度が少ない、など
薄利多売の状態
(収益低下)
原料高に対して価格転嫁が遅れている。営業日が少ない。集客が不足していて固定費を賄えていない、など
キャパシティの不足スタッフが確保出来ていない、予約や来店が多くてお客様の獲得機会を逸失している、設備が脆弱で売逃しがある、など
目標利益の未達目標とする客数や客単価の未達、変動費や固定費の上昇、など

例えば赤字の解消が課題であれば、その原因には営業不足やリピーターが減少していることなど、何かしらの原因が発生しています。複合的に起こっている場合もあるので、要素は何個あっても構いません。薄利多売が原因であれば、原料高が価格に転嫁されていないことや、営業日数や営業時間が足りずに、時間単価では黒字でも家賃を賄えていない事が考えられます。新規事業計画の場合はお客様の確保や資金の確保などが課題となりますし、創業時の計画にもこのフォーマットは同じように使えます。
根本原因をしっかり掘り下げることで、より的確な解決策を検討することが出来ます。

根本原因から解決策と達成水準を考える

原因を抽出したのであれば、その解決策を考えていきます。解決策がなかなか思いつかない場合は原因が曖昧なケースが多いので、課題と原因との因果関係についてもう一度考えてみましょう。なれるまで時間はかかりますし、事業計画に絶対的な正解はないので、丁寧に取り組むことをおすすめします。原因と解決策、達成基準のサンプルは次のとおりです。

よくある原因解決策達成基準
営業に関するツールが足りていない自社事業のコンセプト資料を作成する10ページ程度の制作物を6ヶ月後に作る
原料高に対し価格転嫁が遅れている消費税の外税化を行う1ヶ月前の告知を行い、202X年X月から開始する
設備が脆弱で売逃しがある設備の導入を行う処理量が毎分○個の設備を202X年X月に導入する
ホームページのアクセス数が少ないホームページのリニューアルを行うスマートフォン対応したホームページを202X年X月にリニューアル公開する

営業ツールが足りていないことが根本原因であれば、何をつくれば充足している状態になるのかを考えます。そして、その解決策が達成できたかどうかを判断する基準も合わせて考えます。今回のサンプルは、実際に住宅会社で発生していたことで、営業マンのスキルにバラツキがあり、口頭での説明をやめてツールを用いて標準化するというものでした。達成基準を満たすことができるように取り組むことが事業を改善し、目標を達成する活動につながっていきます。

対応策を期限内に達成基準まで取り組むことが、事業計画に沿った活動になります。この活動は、課題の解決を通じて、経営全体の目標につながっていきます。
当社では、この計画を半年や毎月などの期間で振り返ることで、目標に近づくことができると考えています。ぜひ計画作成に取り組んでみてください。

この記事を書いた人

川橋 隆則

中小企業診断士 当事務所の代表を務めています

パティシエからスタートして、システムエンジニアとなり、その後に経営コンサルタントとなった
ちょっと変わった経歴の持ち主です。